バッハ『インヴェンションとシンフォニア』は、どの版の楽譜を選べばいい?

ピアノ学習が中級に入ればぜひ学んでおきたいバッハの『インヴェンションとシンフォニア』。単なるポリフォニーの指練習にとどまらず、音楽を立体的にとらえて歌うように弾く技術を習得する上で必須です。またそれぞれの曲がどれほど精緻に作られているか知れば知るほど面白くなる素晴らしい芸術作品でもありますね。一生お世話になる大事な曲集だけに楽譜も良いものを選びたいものです。

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「原典版」ー指導者や専門的に学ぶ方は必携!

バッハのイメージ

「原典版」とは、必ずしも自筆譜や初版の楽譜を指すのではなく、作曲家が残したメモや修正などの様々な資料を研究して作られた、「作曲家の意図を最大限に反映していると思われる楽譜」のことです。ですから時代と共に研究が進めば原典版もリニューアルすることがあります。

原典版には作曲家によるものではないスラーやスタッカート、強弱記号などの表示が記載されていません。まだ原典版で弾くことに慣れていない学習者であれば、弾き方に戸惑ったり自己流になったりしないようレッスンで教えてもらいながら使うのがよいでしょう。独学の方やとりあえず1冊そろえたい場合は、後の方でご紹介する「最新の原典版を使用した新しい校訂版」をオススメします。

指導者の中には昔習った校訂版のアーティキュレーションに慣れている方もおられるかもしれません。しかし最新の情報で正しく教えるために原典版は必携です。その上で様々な校訂版を参考にするとよいでしょう。特に指使いは版によってかなり異なります。

代表的な原典版はこちら

ウィーン原典版(Wiener Urtext Edition)

ウィーン原典版:バッハ インヴェンションとシンフォニア
[ウィーン原典版 42] バッハ 『インヴェンションとシンフォニア』(音楽之友社)

ウィーン原典版は、マインツの出版社ショットとウィーンのユニヴァーサル・エディションによって設立されたWiener Urtext Editionから出ている楽譜です。第一線の音楽学者や演奏家が注釈や校訂に加わって作られた信頼性が高い楽譜で、多くのピアノ指導者や学習者が愛用しています。

こちらの原典版は、原典版の作成過程に関する詳しい説明を載せているのが特徴で、音楽之友社との提携により資料を日本語で読めるのも良いところ。ウィーン原典版『インヴェンションとシンフォニア』には通常版の”42″と、解説の「装飾法について」の部分を省略した少し安価の”42a”があるので、装飾法の解説が載せられた別の本を持っている場合は、”42a”を選んでも良いでしょう。

ベーレンライター版(Bärenreiter-Verlag)

ベーレンライター版 インベンションとシンフォニア
『バッハ インヴェンションとシンフォニア(運指あり)』(ベーレンライター社)

ドイツのカッセルに拠点を置くベーレンライター社の「新バッハ全集」はあらゆる資料を厳密に検討し、学術的・批判的考証を加えた原典版として信頼が高く、多くの音楽学者や演奏家に支持されています。譜面も見やすく洗練されています。

ベーレンライター版の『インヴェンションとシンフォニア』には運指ありの楽譜(表紙にWith Fingering/Mit Fingersatzenの表示あり)と運指なしがあるので、ご購入の際はよくご確認ください。学習用の場合は指使いがないと混乱するので、運指ありの楽譜を使用しながらご自分の手に合わない部分は先生に尋ねたり、他の版の指使いを参考にするとよいでしょう。

ヘンレ版(G. HENLE VERLAG)

ヘンレ版インヴェンションとシンフォニア
『J.S.バッハ インヴェンションとシンフォニア(運指あり)』(ヘンレ社)

「原典版」と言えばヘンレ版というほど多くの人に愛用されている楽譜は、”ヘンレ・ブルー”と呼ばれる美しい色の表紙だけでなく、音符を際立たせるためのクリーム色の印刷紙、学習者にとって使いやすい編集など、美しく読みやすい楽譜へのこだわりがたくさん。もちろん原典版としても権威があります。最近はデジタル版や難易度の公開など新しい取り組みも見られます。

現在販売されているヘンレ版の『インヴェンションとシンフォニア』は絶版になった旧版(HN 64)から改訂された改訂新版(HN 589)です。また同じ編集者によるもので運指なしの楽譜(HN 1589)もあるので、購入の際は表紙の番号をよくご確認ください。

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「校訂版」ー楽譜と校訂が新しく信頼できるものを!

楽譜イメージ

「校訂版」は研究者やピアニストが自分の解釈や演奏法に基づいて、スラーやスタッカート、強弱記号などを書き入れた楽譜のことです。古くは「ブゾーニ版」、「ビショッフ版」、「井口版」などが有名ですね。ピアノ学習者にとっては演奏方法についての情報が多く役立ちますが、いくら優れた校訂版であっても時代の流れと共に情報の一部が古くなってしまうことは避けられません。

そのような訳で校訂版で練習する際は「最新の原典版を使用した新しい校訂版」、つまり信頼できる最新の原典版の楽譜に最近の研究に基づく校訂が加えられている版を選びましょう。特に独学の方やとりあえず1冊そろえたい場合にはそのような校訂版がオススメです。

おすすめの「校訂版」はこちら

市田儀一郎編『J.S.バッハ インヴェンションとシンフォニア』(全音楽譜出版社)

市田版インヴェンションとシンフォニア
『J.S.バッハ インヴェンションとシンフォニア(市田儀一郎 編)』(全音楽譜出版社)

バッハ研究の第一人者である市田儀一郎氏の校訂版です。楽譜はベーレンライター社の原典版「新バッハ全集」を使用しています。主題の歌い出し、フレーズの切れ目、カデンツァの位置と調性などが書き入れられていますが、いずれも控えめに記されているので、レッスンでも使いやすい楽譜です。

また装飾音や運指についての詳細な説明に加えて、各曲の解説も詳しく載せられていて、学習者だけでなく指導者にも役立つ本になっています。全ての解説を日本語で読めるのもうれしいです。全音からは標準版やビショッフ版など、体裁がよく似ている別の版も出ているのでご購入の際はよくご確認ください。

山崎孝編『バッハ 《インヴェンションとシンフォニア》演奏と指導のポイント』(音楽之友社)

山﨑版インヴェンションとシンフォニア
『バッハ 《インヴェンションとシンフォニア》演奏と指導のポイント』(音楽之友社)

数々の国際コンクールの審査員として活躍し、解釈本や楽譜の校訂版を多数出版しているピアニスト山崎孝氏による校訂版です。こちらも楽譜はベーレンライター社の「新バッハ全集」を使用しています。楽譜より解説のページが多いというほど非常に詳しい説明が盛りだくさんです。

通常、解説ページは本の前か後の方にまとめられていますが、この本は各曲の前に曲の構成や演奏のための助言が見開き2〜4ページに渡り載せられているため使いやすく、楽譜には主題の歌い出しやフレーズの切れ目の印に加えて、どのようなニュアンスで弾き、どの音をよく聴くべきかなどピアニストならではの説明が非常に詳しく書き入れられています。全ての音に指使いが記されているのも特徴的です。

他の楽譜に比べて少し価格が高いですが、「楽譜+解説書」ともいうべき充実した内容を考えるとむしろ安いぐらいで、指導者の方はぜひ一冊持っておきたい楽譜です。学習者には少し解説が難しく感じるかもしれませんが、持っていれば後々きっと役に立つでしょう。オススメの楽譜です。

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インヴェンションとシンフォニアの難易度

以下は当サイトでご紹介しているインヴェンションとシンフォニア各曲の難易度です。(初級:1〜3、中級:4〜6、上級:7〜9、超人の10段階評価)ご自由に難易度評価に参加できますので、下のボタンでバッハの作品リストに移動後、評価したい曲の「投票する」欄の「Go」をクリックして投稿してみてください。(詳しい投票方法はこちら

インヴェンション番号シンフォニア
Level3
第1番
Level4.5
Level4
第2番
Level5
Level4
第3番
Level5.5
Level3
第4番
Level5
Level4.5
第5番
Level4.5
Level4
第6番
Level4.5
Level4
第7番
Level5
Level4
第8番
Level5
Level4
第9番
Level5.5
Level3.5
第10番
Level5
Level4.5
第11番
Level4.5
Level4.5
第12番
Level5.5
Level4
第13番
Level5
Level4
第14番
Level5
Level3.5
第15番
Level4.5
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楽譜はこちらから


いかがでしたか?中級でぜひしっかり学んでおきたい大事な曲集だけに良質の楽譜を選んでくださいね。「インヴェンションとシンフォニア」の次の段階として「平均律クラヴィーア曲集」は必修です。その楽譜選びは下の記事をご参考ください。

TeeJay

TeeJay
ピアノ教師。海外のとある国でピアノを教えつつ感じたのは、良質の楽譜に容易に接することができる環境は本当にありがたいということ。ピアノレッスンや練習で、テクニックの習得だけでなく、音楽を表現する楽しみを味わうのに役立ついろいろな楽譜をご紹介しています。

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