モラヴィア地方の民俗音楽研究から生み出された、独特で心を惹きつけるヤナーチェクの音楽の魅力は、オペラや管弦楽の作品だけでなくピアノ曲にも表れています。今回はヤナーチェクの世界を楽しめる「ヤナーチェク ピアノ作品集」をご紹介します。
レオシュ・ヤナーチェク
レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček, 1854-1928)はモラヴィア(現在のチェコ東部)出身の作曲家です。モラヴィア北部の村フクヴァルディに生まれ、11歳から首都ブルノにある修道院の少年聖歌隊に入り音楽を学びました。1874〜1875年にプラハのオルガン学校で学び、1879〜1880年にライプツィヒとウィーンの音楽院で学んだ以外は、生涯のほとんどをブルノで過ごし、ブルノに音楽学校(現在のヤナーチェク音楽院)も設立しました。
同じチェコでもスメタナやドヴォルザークの出身地ボヘミア(西部)とヤナーチェクの出身地モラヴィア(東部)には文化的な違いがあります。ヤナーチェクは西洋音楽に民俗音楽を取り入れるのではなく、民族音楽から独自の語法を確立しました。
1886年からは民俗学者バルトシュと共に民俗音楽の収集作業を行い、モラヴィア民謡を構造的に分析して独自の語法を確立しようとしました。特に民謡の基礎が話し言葉の抑揚にあると考え、その抑揚を写し取った旋律(スピーチ・メロディー)を収集し作曲に活用しました。しかし作曲家として認められるようになったのは60歳を過ぎてからで、亡くなるまでの10年ほどの間に独創性あふれる数々の曲を世に送り出しました。
「ヤナーチェク ピアノ作品集」(全音楽譜出版社)
全音楽譜出版社の「ヤナーチェク ピアノ作品集」には、「スピーチ・メロディー」から生まれた独特な魅力を放つヤナーチェクの作品が20曲収録されています。スラヴ民謡の素朴ながらも強い印象が特徴的な「草かげの小径にて」は一篇の詩のような叙情的な作品で、第1集は1908年に出版され、作曲者により曲名が付されましたが、第2集は作曲者の死後出版され曲名はありません。
コンサートのレパートリーとして用いられることもある「ソナタ 1905年10月1日 街頭にて」(1. X. 1905)は、ブルノにチェコ人のための大学設立を訴えるデモで、軍隊との衝突により一人の労働者が死亡した事件を追悼して書かれた作品で、第1楽章「予感」、第2楽章「死」に続く第3楽章「葬送行進曲」は紛失してしまいました。「霧の中で」はヤナーチェク生前最後の曲集です。
「ヤナーチェク ピアノ作品集」の収録曲
- 「草かげの小径にて 第1集」1. 私たちの村の夕べ
- 「草かげの小径にて 第1集」2. 散りゆく木の葉
- 「草かげの小径にて 第1集」3. 一緒においで!
- 「草かげの小径にて 第1集」4. フリーデクの聖母マリア
- 「草かげの小径にて 第1集」5. 燕のようにしゃべりたてる娘たち
- 「草かげの小径にて 第1集」6. わかり合えずに!
- 「草かげの小径にて 第1集」7. おやすみ!
- 「草かげの小径にて 第1集」8. こんなに不安で
- 「草かげの小径にて 第1集」9. 涙ながらに
- 「草かげの小径にて 第1集」10. フクロウは飛び去らず!
- 「草かげの小径にて 第2集」1.
- 「草かげの小径にて 第2集」2.
- 「草かげの小径にて 第2集」3.
- 「草かげの小径にて 第2集」4.
- 「草かげの小径にて 第2集」5.
- 「ソナタ 1905年10月1日 街頭にて」
- 「霧の中で」第1番
- 「霧の中で」第2番
- 「霧の中で」第3番
- 「霧の中で」第4番
収録曲をYouTubeで聴いてみよう!
ピアノソナタ1905年10月1日(1. X. 1905)
「草かげの小径にて 第1集」(全曲)
「草かげの小径にて 第2集」(全曲)
「霧の中で」(全曲)
楽譜はこちらから
原典版の楽譜をお探しの方にはベーレンライター社から出ているものをおすすめ。各作品の他、「ピアノ作品選集」にはあまり知られていない曲も収録されていますよ。(詳しくはベーレンライター社のこちらのページをご参考ください)
いかがでしたか?話し言葉の抑揚をヒントに確立されたヤナーチェクの音楽は、まるで詩の朗読や訴えかける言葉のように人の心を惹きつけます。独特の魅力をもつヤナーチェクのピアノ曲をレパートリーに取り入れてみてくださいね。
「草かげの小径にて 第1集」の第7曲「おやすみ!」は「ピアノ名曲150選 中級編」にも収録されていますよ!
TeeJay
ピアノ教師。海外のとある国でピアノを教えつつ感じたのは、良質の楽譜に容易に接することができる環境は本当にありがたいということ。ピアノレッスンや練習で、テクニックの習得だけでなく、音楽を表現する楽しみを味わうのに役立ついろいろな楽譜をご紹介しています。
楽譜の部屋の人気ページ